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神戸家庭裁判所 昭和48年(家)1970号 審判 1973年11月27日

申立人 小川邦男(仮名)

相手方 小川光夫(仮名) 外三名

事件本人 小川ツヤ(仮名)

主文

事件本人小川ツヤに対し、申立人小川邦夫は二三、〇〇〇円を、相手方小川光夫は一二、〇〇〇円を、同小川春夫は五、〇〇〇円を、昭和四八年一一月から事件本人の存命中毎月末日限り、同人の住所に持参または送金して支払え。

申立人小川邦夫は事件本人小川ツヤに対し昭和四八年一二月から同人存命中、毎年一二月に二〇、〇〇〇円、八月に一〇、〇〇〇円をその月の一五日限り、同人の住所に持参または送金して支払え。

相手方森谷静子は、事件本人小川ツヤに対し、昭和四八年一二月から同人存命中、毎年一二月と八月に各五、〇〇〇円宛をその月の一五日限り、同人の住所に持参または送金して支払え。

相手方小川光夫は申立人小川邦夫に対し三、五〇〇円を支払え。

相手方小川春夫は申立人小川邦夫に対し二五、〇〇〇円を支払え。

理由

申立人は、事件本人ツヤの扶養の程度方法について相手方らとの間の調停を求め、

事件の実情として、事件本人と相手方らの実母であり、申立人はこれまで同居して扶養して来たが、最近事件本人が申立人の妻幸子(昭和四六年一〇月婚姻)に対し、過度の悪感情を持ち同居に堪えられないので、相手方らにおいて引取るかもしくは適宜の方法で互いに扶養するかを定めたいが、それぞれ家庭の事情があつて結論が出ないので調停を求めると述べた。

調停委員会は種々調停を試みたが合意に達せず、調停は昭和四八年一〇月五日不成立となり審判手続に移行した。

(当裁判所の判断)

申立人および相手方各本人ならびに事件本人の供述(家庭裁判所調査官川口茂雄の調査報告書記載のものを含む)その他提出の資料によるとつぎの事実が認められる。

(被扶養者と扶養必要性)

事件本人ツヤ(明治三八年二月生)は昭和一五年に夫と死別し、会社や公証人役場の事務員をし、戦後は家政婦などをしていたが、子らの成長により、昭和二五~二六年頃からは無職である。昭和三一年相手方光夫(長男)が結婚し、同四一年に同静子(二女)、同四五年に同春夫(六男)が相次いで結婚してからは、申立人邦夫(四男)とその妻幸子(昭和四六年一〇月結婚)と同居して来た。相手方光夫から毎月三、〇〇〇円(なお年二回賞与時には五、〇〇〇円宛)送金があるほか申立人邦夫の扶養を受けて来た。

ところが、昭和四七年秋頃から申立人の妻幸子(昭和一六年一〇月生電話局交換手)との仲が円満にいかなくなつたので、申立人から昭和四八年六月二〇日扶養の方法について本件申立に及んだ。

事件本人ツヤにおいても、翌日二女静子方に身を奇せたが、七月二五日肩書アパートに単身入居して現在に至つている。六畳一室炊事場付で敷金一五〇、〇〇〇円、賃料月額一一、〇〇〇円であるが、事件本人もその居住性には一応満足している。

事件本人ツヤは、ときどき、左手神経痛と右側腹部痛の自覚症状を有するほかは健康であるが、六八歳の高齢で資産収入がないため、扶養の必要性がある。

つぎに、その必要額について考える。

事件本人ツヤは、現住居で生活するためには、家賃一一、〇〇〇円のほか光熱費、水道料、掃除代等一四、〇〇〇円余の住居関係経費を必要とするから、これに食費その他を加えると生活費月額四〇、〇〇〇円ないし四五、〇〇〇円が必要だと述べ、相手方春夫も月額四〇、〇〇〇円ないし四五、〇〇〇円が必要と述べる。相手方光夫は、扶養義務者らの生活程度、負担能力から、事件本人の生活費は月額三五、〇〇〇円ないし三七、〇〇〇円が限度と述べ、申立人邦夫も三五、〇〇〇円に若干の小使銭を加えた額と述べているが、同人提出の予算書では、小使銭の額を六、〇〇〇としているから、これを加算すると四一、〇〇〇円になる。

兵庫県人事委員会が昭和四八年四月に調査した神戸市における一人世帯標準生計費月額は三三、三七〇円である(兵庫県公報九月一〇日付号外。なお、芦屋市についてはその資料がない)しかし、これは一八歳独身男子の場合であり、六五歳以上の女子の消費単位率はおおむねその〇・七とみてよいから約二三、五〇〇円になる。また、総理府統計局調べによる同年一月から六月、六か月間の神戸市全世帯(平均世帯人員三・七六人、平均有業人員一・四五人)の一人当り支出金額は二九、〇五一円であり(統計神戸一〇月号)両者の単純平均額は二六、二七六円である。これに家賃一一、〇〇〇円を全額加算すれば事件本人の場合は三七、二七六円になる。そして、本件の扶養義務者たちの生活程度が後記認定のとおり平均水準か、むしろ、それ以下とさえ認められるから、相手方光夫のいうように月額三七、〇〇〇円を事件本人の生活費としてもやむをえないかも知れない。しかし、アパート住まいであるために必要な特別の出費や最近の消費物価の上昇傾向、現職者には給与引上げ等収入増が期待されても事件本人にはそれがないこと、ならびに上記事件本人や申立人邦夫、相手方春夫の各意見を考慮すると事件本人の扶養必要額は一か月四〇、〇〇〇円と定めるのを相当と認める。

(扶養義務者の生活状態と扶養能力)

一  申立人邦夫(四男、昭和九年一月生)は○○タクシー配車係で月収手取約六七、〇〇〇円であるが、妻幸子も電話局交換手として勤め、月収手取約五〇、〇〇〇円を得ており、子その他の被扶養者はいない。各自の職業維持に必要な費用を約一割と考え、これを控除すれば、申立人邦夫は約六〇、〇〇〇円、妻幸子は四五、〇〇〇円が生活にあてうる収入である。前記兵庫県人事委員会調査による二人世帯の標準生活費は月額六〇、七六〇円である。夫婦はその収入に応じて生活費を分担すべきであるから、申立人邦夫は約三五、〇〇〇円、妻幸子は二五、〇〇〇円を出し合うことになり、申立人邦夫はなお二五、〇〇〇円が残る。家庭裁判所調査官川口茂雄の調査報告書によれば、これまで妻幸子が家計に入れていたのは一〇、〇〇〇円程度であつたようであるが、今後は上記程度において夫婦間の協力が望まれる。

二  相手方光夫(長男、大正一五年二月生)は○○製鋼○○工場に勤務し、月収手取約一〇万円余と年二回の賞与がある。昭和四七年度源泉徴収票によれば、所得税、社会保険料、生命保険料を控除した年間収入は一、九三五、八八七円である。妻初(昭和六年二月生)と長男一男(同三二年一一月生、高校一年)、二男晃(同三四年一月生、中学三年)がある。そして、居住地域は違うけれども、一応の参考基準とみてよい上記生計調査によれば、四人世帯の標準生活費は九六、六七〇円であり、妻初には慢性腎臓炎があるから生活に余裕はないが、事件本人が申立人夫婦と同居できなくなつたのをやむを得ないものと認め、それに必要な生活費を三七、〇〇〇円と考え、これを男兄弟三名で平等負担すればよいから、自分もその三分の一に相当する額一二、〇〇〇円程度は家計を節約して分担してよい意向である。

三  相手方春夫(六男、昭和一二年一二月生)は○○電力○○支店配電課に勤務し、月収手取約七五、〇〇〇円と年二回の賞与がある。昭和四七年度源泉徴収票によれば、所得税、社会保険料、生命保険料を控除した年間収入は一、四三四、九一三円である。妻ひろ子(同一五年二月生)長女明子(同四六年九月生)があり、育児のため妻の共稼ぎは期待できない。上記調査による神戸市における三人世帯の標準生計費は約八一、六六〇円であるから、本年度の給与引上げを考慮しても生活に余裕がないが、節約して月額五、〇〇〇円程度ならば負担してよい意向である。

四  相手方森谷静子(二女、昭和六年一二月生)は家庭の主婦で、夫の扶養を受けているが、夫の母(八〇歳)をその弟に引取り扶養してもらつている状態であつて、自己の扶養能力がない。ただ、これまで年二回夫の賞与時には母の小使銭として五、〇〇〇円宛を渡しており、今後もその程度は負担してよい意向である。

五  相手方榊増夫(二男、昭和二年三月生)は三歳時に事件本人ツヤの姉榊トシ方に養子に行き、事件本人や申立人ら同胞ともほとんど交渉がなかつたうえに、最近は肝臓疾患で無職無収入(元船員)で内縁の妻(バーホステス)に生活を依存している状態であるので扶養能力がない。

事件本人には、他に長女道子、三男徹、五男浩夫があつたが、いずれも乳幼児の当時に死亡し、上記五名のほかには扶養義務者がない。

(扶養料の分担)

一  毎月の扶養料

扶養義務者各自の扶養能力は以上認定のとおりであるから、事件本人ツヤの毎月の必要扶養料四〇、〇〇〇円のうち相手方光夫が一二、〇〇〇円、同春夫が五、〇〇〇円を負担し、残額二三、〇〇〇円は申立人邦夫において負担するのが相当である。申立人邦夫の主張する負担額は二〇、〇〇〇円であり、前記調査における三人世帯と二人世帯の生計費の差額も二〇、九〇〇円であるけれども、別居することと、上記認定のような負担能力とを考えれば三、〇〇〇円程度支出が増加しても多きに過ぎるとは認められない。

二  賞与月の扶養料

相手方静子は七月と一二月の賞与月に事件本人に対し、これまで五、〇〇〇円宛を渡して来ているので、今後も同額を支払うのが相当である。

また、申立人邦夫もこれまで一二月の賞与時二〇、〇〇〇円、夏季賞与時一〇、〇〇〇円を毎月の生活費とは別に事件本人に渡しており、相手方光夫、同春夫は給料に余裕がないのに毎月上記金額を負担すること、年末等には事件本人も特別の費用がいること等から、相手方静子のほか申立人邦夫も従前どおり、毎月一二月に二〇、〇〇〇円、八月に一〇、〇〇〇円を雑費として別に支払うのが相当である。相手方光夫、同春夫の負担能力は前記のとおりであるから、賞与月の負担は任意の支払いにまかせ、裁判上の義務としない。

三  別居時諸費用の分担

事件本人ツヤがアパートに入居したときの七月分日割家賃二、五九〇円、必要品代約三、七二二円(ガソリン代一、〇〇〇円を除く)、周旋料五、五〇〇円と敷金一五〇、〇〇〇円合計一六一、八一二円は申立人邦夫が支払つている。アパートの賃借名義人は事件本人ツヤであり、敷金もツヤ名義で差入れているから、これもツヤのために立替え支出したものと認めてよい。そして、事件本人ツヤが別居しなければならなくなつたのは、申立人邦夫やその妻幸子のみに非があるわけでなく、ツヤ自身にもその原因があると認められるから、この金額も上記三名において分担するものとしてよい。ただ、これまで同居していた申立人邦夫は、他の両名とくらべ、事件本人の別居により結果として、時間、労力その他で余裕が得られること、また、上記のとおり、相手方光夫、同春夫は毎月の収入に余裕がないことを考慮すれば、相手方光夫が一五、〇〇〇円、同春夫が一〇、〇〇〇円を負担し、残額一三六、八一二円は申立人邦夫において負担するのが相当である。

四  扶養義務者間の求償

上記によると、事件本人がアパートに入居したときから一〇月までの間の分担として、申立人邦夫は二〇五、八一二円、相手方光夫は五一、〇〇〇円、同春夫は二五、〇〇〇円を各負担しなければならないことになるところ、申立人邦夫はすでに前記入居時の費用一六一、八一二円のほかその後の生活費として、七月二五日三〇、〇〇〇円、八月三一日二〇、〇〇〇円、一〇月二日二二、五〇〇円、合計二三四、三一二円を支払い、また、相手方光夫は九月一〇日三〇、〇〇〇円、一〇月四日一七、五〇〇円、合計四七、五〇〇円を支払つているから、申立人邦夫は二八、五〇〇円の過払いになつているのに対し、相手方発夫は三、五〇〇円、同春夫は二五、〇〇〇円が未払いである。よつて、相手方光夫、同春夫はこれを申立人邦夫に支払わなければならない。

なお、相手方榊増夫は上記のとおり扶養能力がないから、扶養料についてはすべて義務としない。

よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 坂東治)

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